home documents shop link off the gallery
 
 

 

last updateBack Number |2003.11.18

-8- 御茶ノ水 (1/2)


 御茶ノ水駅で地下鉄を降りると、地上への階段にはサンジェルマン・デ・プレの記憶を呼び起こす晩秋の陽射しが注ぎ込んでいた。
 私邸を改築した料理店への道筋を思い出しながら、細い路地に何度も迷い込む。このあたりも、すっかり景色が変わってしまった。ようやく辿り着いた頃には、陽も傾きかけていた。この料理店へ来なくなったのは、いつ頃からだろう。はじめにここに連れてきてくれた知人とも、いつの間にか会うことがなくなり、料理は常に満足させてくれるものだったが、何度通っても雰囲気が今ひとつなじめなかったこともあって、足が遠のいたのだった。今日もここでは何も食べずに帰るのだろう。
 久しぶりにここに来たのは、料理店ではなく、入口の横の階段を下ったところにある私設のギャラリーを訪ねるためである。手作りの案内状を送ってくれた人物は、プラチナ・プリントの職人だった。しかし知り合ったのは、写真を通してではなく、まったく関係のないきっかけだった。何かの話をしていた時にたまたま、プラチナ・プリントの請け負いを仕事にしていることがわかり、自分の作品も作っていること、しかし人に見せようと思って作っているわけではなく、じっさいほとんど見せたこともないことを知ったのだった。ぼくも写真に関係したことをやっていることを話すと、苦い表情を一瞬だけ見せていた。もし、あらかじめそのことを知っていたなら、仕事の話題はいっさい出なかったに違いない。
 その後、仕事場を訪れる機会があり、自身の作品の一部と制作を請け負った作家からプレゼントされたというコレクションを見せてもらった。驚いたことに、コレクションより自身の作品の方が圧倒的に純度が高く、言葉にすることができない強度があった。そのことを伝えると、「自分の技法に合うものを作っているのだから、それは当然」と、笑っていた。


| next |

| site map | access | contact |
Copyright (c) 2001- photographers' gallery, All Rights Reserved.