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last updateBack Number |2003.8.10

-2- 花火 (1/2)


 夏になると、はじめてカメラを持ったときのことを想い出す。

 それは、花火大会の日のことだった。当日になって急に父がカメラを貸してくれたのだ。子供の目には、途方もなく高価で、海外製のようにも見える皮のケースに包まれたそのカメラは、不思議な数字がついたリングがたくさんついていた。小遣いとカメラを持ってカメラ屋に行ってフィルムを入れて貰った。当時すでにカラーフィルムはあったはずだが、おじさんが入れてくれたのは、黒白フィルムだった。たぶんネオパンSSかSSSあたりではないかと思う。
 使い方は教えて貰えなかったのか、あるいは神秘的にすら見えた機械を手にした喜びのあまり聞いていなかったのか定かでないが、いずれにせよ、その時ぼくは、不思議なリングをいじればいじるほど、素晴らしい写真が撮れると思い込んでいた。その夜、花火に照らされる空を見上げながら、ありとあらゆる数字の組み合わせで、緊張に汗ばみながら写真を撮ったのだった。想像もつかないほどの傑作が、そのフィルムには詰まっているはずだった。
 カメラ屋に現像に出し、一日後に受け取りに行ってみると、おじさんは「何も写ってなかったよ」と言う。とりあえずお金を払い袋を貰って家に帰り中身を開けると、見たことのあるネガシートではなく、丸めたフィルムが入っている。伸ばして透かして見てみると、確かに何も写ってない部分もあったが、像がある部分もある。何だ、写ってるじゃないか。何でプリントしてくれなかったのだろう。カメラ屋のおじさんが、たいそう陰険な人物に思えた。
 それからしばらく経って、天体観測をやっている近所のお兄さんにそのフィルムを見せる機会があった。「うーん…、焼いてみる?」と言われ、その意味もよくわからないまま、お兄さんの家の暗室について行った。お兄さんは、ネガに鋏を入れながら要領よく印画紙の上に並べ、硝子を重ね、電球のスイッチをカチッと一瞬入れて、現像液の中に印画紙を浸す。じわじわと黒くなっていく印画紙には、ところどころ白いすじや模様のようなものが浮かび上がっていた。

 それは、写真とは言いがたいものの、確かに自分が写真を撮った痕跡ではあった。気分ですぐに写真を捨ててしまうことの多いぼくが、その後誰にも見せることのなかったそのベタ焼きだけは今でも持っているのは、それが何も写ってない写真だからなのかもしれない。



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