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三島 靖 MISHIMA Yasushi

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35:美術館の「オオヤケ」度

2005.5.13.


 朝日新聞の5月11日付夕刊1面に「都の文化施設 運営主体 企業に門戸」という記事が掲載されている。
 記事によれば、現代美術館、写真美術館を含めた6つの主要文化施設(ほかに東京文化会館、都美術館、江戸東京博物館、東京芸術劇場)について、2009年度以降の運営主体を指定管理者制度に基づいた公募で決めて委託する方針を、都が固めたのだという。
 指定管理者制度とは、自治体が公の施設の管理を外部に委託するときは、これまで自治体が出資する法人や公共団体に限っていたものを、議会の議決で指定された団体に委ねることができるというもので、2003年の秋に地方自治法に導入されている。「公の施設」とは、地方公共団体が、住民の福祉を増進するために設置しその住民が利用する施設」で、体育施設、文化施設、社会福祉施設、観光施設などさまざまだ。また「管理」とは保守警備業務ではなく、施設全体の運営のことをさす。
 簡単にいえば、これまで自治体の直営か自治体出資の公の団体が運営にあたってきた施設を、民間団体つまり企業が運営できるようになった、ということだ。さらに細かくみると、これまでは施設の管理権限および責任は設置者である地方公共団体にあり、施設の使用許可権限は運営団体には委託されなかったが、指定管理者には施設の使用許可権限も含めた施設の管理権限が委任され、地方公共団体は設置者責任において必要に応じた「指示」を行うのみとなっている。
 ふたたび記事に戻ると、さきの6施設の運営主体の選考は2006年度に実施し、このような施設での企画実務には時間がかかるため、選ばれた運営主体が実際に運営するのが2009年からになるとのことだ。選考基準は未定だが、事実上、これまですべての運営を委託されてきた都の特殊法人「東京都歴史文化財団」と企業とで運営主体の座を争うことになるようだ。

 わたしは、このような施設の運営にはまったくの素人である。
 また、政府や自治体をはじめ、公の業務についたこともない。
 したがって、今後、広く公立美術館の運営が民間団体に委託される可能性が実際にあるのかどうか、もしそうなった場合に具体的にどんな状況になるのか、ということはわからない。

 企業は集客と売り上げしか追求しない。したがって企業に公共性の強い美術館の運営などを委託すると企画や展示の質が低下する。
 企業は公共美術館が所蔵するような貴重な資料を扱った経験が少ない。したがって企業に公共性の強い美術館の運営などを委託したら大変なことが起きる。

 というのが「公」とそれを支持する側の危機感としてよく聞かれるものだ。
 しかし「公」がしてきた仕事の不手際がつぎつぎと露見し、それらに対して不信感が集中しているいま、この反論には説得力がない。
 たとえば、近年しばしば行われてきた、展示が難解だとか学芸員のひとりよがりだという批判−−税金のムダ使いだという批判−−を無視できなくなった「公」の運営者が、重要な課題としたのは、集客と売り上げではなかったのだろうか。
 わたしに断言できるのは、集客と売り上げ「しか」追求しない、と批判しておいて、集客と売り上げ「も」追求できるなどという器用なことは、申し訳ないが「公」のかたがたには無理だ、ということだ。

 芸術というものは、ひとしく難解なのだ。また芸術というものは、ふつう、ひとりで「よがる」ものである(学芸員だけがよがっても仕方がない。念のため)。
 なぜなら芸術というものは、目の前のただひとつのモノをとおして、目の前にない、世界というたいへんやっかいなものに、それに関わる者それぞれがただひとりで直面する、そういうことなのだから。
 要するに、いまのわたしたちには、そのような行動に対する欲求もレスペクトもない、ということだ。
 わたしは芸術に無関心な一般大衆だけを批判しているのではない。むしろこれは、芸術に関心があると思いこんでいるわたしたちの側にあった罪なのではないか、ということなのである。

 今回の都の方針決定に危機感を持つとすれば、実はこの決定は「美術館なんていらない」という、水底から水面ぎりぎりまで上がってきて鳴り響いている多数の声をかなり正確に代弁しているのだ、ということに危機感を持つべきだろう。
 かりに東京都写真美術館が、お台場にあるようなショッピングセンターなりテーマパークなりに作りかえられると決まったとして(しゃれたフォトギャラリーが併設されていますとかね)、どれほど強硬な反対運動が行われるだろうか。わたし自身は、いま現在の東京都写真美術館を守るためにその運動に参加するだろうか……。

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