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三島 靖 MISHIMA Yasushi

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27:「木村伊兵衛と土門拳」展へのお誘い

2004.2.12


 東京・千代田区の有楽町朝日ギャラリーで「近代写真の生みの親 木村伊兵衛と土門拳」展が開かれている。
 私にとってこの二人の写真家は一種の地縛霊のようなもので、忘れたいので忘れたふりをするとかえって出てきてしまう、そんな存在である。もちろん二人とも一面識もなく、生前の姿は写真や昔のテレビ番組の録画でしか見たことがない。もっとも、いまを去ること十数年前、この二人について何かを書いてみるというスタートラインに立ったとき、白装束に傘をかぶり杖をついたお遍路姿の土門拳が夢に出てきた! 古寺巡礼という言葉から連想して見た夢なのか、杖をつきながら無言で目の前を通り過ぎていったあの姿は、いまでも思い出せるほど怖ろしい!
 さて、ここで私は二人についてあらためて何かを語るつもりはない。近々に出る予定のこのフォトグラファーズ・ギャラリーの年報誌に、映画の話が中心だがやや批判的に二人のことにふれた。それが二人について書いたものでは新しいもので、ここでは写真展をご覧いただきたい、というお招きと、その写真展についてのわずかなメモ書きをさせていただくにとどめる。
「木村伊兵衛と土門拳」展は土門拳記念館(山形・酒田市)の開館二十周年記念展を東京で展示しているものだ。生前さまざまに比較の話題となり、しばしばライバルと目されもした二人だが、かつてニッコールクラブの企画で子どもの写真の二人展が小規模に行われた以外、本格的に二人の作品を同時に展示する機会はなかったそうだ。今回はいくつかのテーマにわけて二人の写真を一四〇点以上展示している。同様な被写体を二人がどう撮ったかという比較が軸のため、モノクロのスナップ撮影に重心があり、また両者の撮影テーマすべてを網羅しきれてはいないが、それはやむをえないだろう。
 昨秋、土門拳記念館で展示が始まったさい、私は依頼されて展示パネルの解説を書いた。直接企画の内容にかかわったわけではないが、その手伝いの縁もあったか、東京展の主催者が作ることになった図録の編集作業をすることになった。
 図録を作るからには限りある予算でも印刷の質感をよくしようと、両者の写真原稿を全工程で微細にチェックしたわけだが、そのとき二人の写真について何か考えることは実はまったくしていない。校正のたびに遺族や関係者に許可を仰ぎながら二人の写真をパッケージしていく作業に専念しただけだ。むろん写真の配列だとか、過去の発表例に合わせてトリミングが必要な場合など、かなり悩んだ作業もないわけではなく、そこでの発見についてはいつか考えてみる機会もあるかもしれないが、全体としては淡々と作業につとめた感じだ。美術館などの展覧会では図録が作られ販売されるが、実際どのような編集制作がされているのだろう。商業出版をなりわいとする者が作るのと同じなのか違うのか。
 そのあたりは私は知らないが、図録を作る作業を終えて実際の展示を見たとき、私は二人の写真をおそらくこれまでで初めて、非常に楽しんで見た。もし展覧会図録を作る人たちが同じような体験をそのたびにされているのだとすれば、これは特権といってもいい眼福ということになるが、どうなのだろう。
 むろん私がした作業は図版印刷のごく基本的な手順をたどっただけだが、商品的な仕上がりを優先して写真を微細に見る目でそのまま展覧会を見れば、飽きも手伝ってうんざりしてしまうのが関の山だろうと思っていた。しかし、展覧会場で私は作品を見ることをとても楽しんだし、訪れる人たちが写真を見て想像して語り合う言葉も楽しく聞いた。
 ある人にいわせれば、調査の目で見る作業にひと区切りついたために、書くことも含めて私自身が、一定の距離をおけるようになったのだ、ということだ。
 もちろんそれもあるだろう。しかしこの写真展を見る楽しさは、プリントの仕上がりだとか、展示作品の選びかたなどにはまったく関係ない、いまそこにある映像が持つ何らかの力のおかげだ、と私は思いたい。個性も作風も違う写真をめぐる、撮る〜撮られる〜見せる〜見せられる、という関係をおおう視線の力学に、一種の幸福な均衡があるのだろうか。その力学に私の視線をも加わらせうることの喜び、なのだろうか。
 とにかく、いまはもう撮れない写真だの、昔はよかったねだのという懐古的賛美などまったく届かないところ――あの写真を、いま見ている――ということの中に、何かがある。むろんこれは、あらかじめ展示作品のすべてを細かく見すぎた私の思い過ごしかもしれない。機会があればぜひこの写真展をご覧いただきたいと思う。


土門拳記念館開館20周年記念
近代写真の生みの親 木村伊兵衛と土門拳

有楽町朝日ギャラリー 東京都千代田区有楽町2-5-1
有楽町マリオン11階
03-3284-0131
3月3日(水)まで/2月16日(月)休館 11:00〜19:00 一般500円

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